Mar 3, 2017

相沢 4回目

■ 相沢リベンジ

水曜は再度、相沢大氷柱へ。4回目。55mをピンクポイントでリードした。

この日は昼ごろから気温が上がる予報だったため、まだ氷柱が大丈夫か心配しながら登る。朝は4時起き5時半出発で、8時に佐久入り、9時ごろ登山口到着、大氷柱には11時ごろ到着した。

甲府は朝の空気が生温かく、太平洋側の暖気が入っているのが分かる。憂鬱な重い雲がかかり、どんよりとしている。パートナーと会うのは、少し気が重い。なぜなら、このピンクポイントを巡っては、コミュニケーションの擦れ違いがあったからだ。

私は個人で成長してきた。だから、積み上げ式の登山しか知らない。いきなり、大きな山など行かない。厳冬期の甲斐駒に単独登頂するまで、6年、下積みした。厳冬期の阿弥陀北稜をソロで行くまで、フリーを含め3年の下積み。そのような登山者の私には、ただ55mもの高さの氷柱が、今の私のスキルで、いきなりリードできるとは思いもよらなかった。

下積みのステップを端折る山をしている人たちも知っている。彼らはいきなり中級ルートに初心者で取り付く。もしくは、ガイド(ベテラン)に連れて行ってもらう。しかし、それはズル、あるいは浅ましさを感じてしまう。酒にも即醸造(普通酒)と低温でゆっくり時間がかかる醸造(吟醸)がある。私はさしづめ、吟醸造りを目指しているのだ。

山梨の中は温かい朝だったが、野辺山まで行くと標高が上がったこともあり、美しい樹氷が見え、青い空も広がってきた。川上村の辺りだけが晴れていることも多い。気温も下がり、なんとか、まだ冬を感じる。これは良い予兆だ。

アイスクライミングは、氷質の見極めが最大のクライミング課題であり、氷が悪ければ登れない。

今回、マスタースタイルではなく、ピンクポイントでのリードとなるのも、わたしがまだ、プロテクションが良く効く氷質の見極めについては、初心者であるからだ。登攀が上達したとしても、それは守りの技術が十分な証拠とは言えない。

パートナーを拾って、登山口に到着。

「春山だなぁ」

が、開口一番のセリフだった。荒船山はもう春山だった。スプリングエフェメラルの季節を感じさせる、温かい空気だ。腕時計式の温度計は、4.9度をさしていた。

山は山梨の山に似ている。登山道からは雪が消え、落ち葉の埋もれていた凍った土もなく、ぬめって滑ることを心配しなくてはならない。

これまで3回通った中で、一番、トラバース部分が悪い登山道だった。私は雪で山を始めたため、アイゼンでの雪上歩行は慣れがあり、相当な傾斜でもあまり怖いと感じることがないが、今回のトラバースは悪いと感じた。

■ 大氷柱

相沢大氷柱へ着くと、まだ氷柱はご健在だった(笑)。が、一番易しい右のラインは、もう氷が薄くなっており、登れない。

ビレイエリアも、スケートリンクのように凍って滑りやすく、足元が悪くなっている。前回来た時は、おじさんがコケていた。

今回は、ランナウトしない、清く正しいリードライン、をお願いしている。

私はリードするときのライン作りが、まだ課題だからだ。ベテランがランナウトするのは、それが合理的選択だからだが、初心者がリードするときのランナウトは、単なる未熟の証明にしかならない。

≪リードラインの作り方≫
・プロテクションが打てるラインを探す 通常、氷がもっとも厚いところ
・その結果、強点を行かなければならないこともある。”プロテクションが良く登攀が難しいところ”と、”プロテクションが悪く登攀が易しいところ”があれば、前者の方がよりベター
・プロテクションの数を想像する それに+2本持って行く(敗退用)
・ロープの屈曲を考え、スリングで伸ばさないといけない場所を考える
・体力の配分を考える (レストポイント)
・ビレイヤーのビレイ位置を考える
・終了点のセットを忘れずに

■ 17本!

今回は、パートナーは私のために17本もスクリューを打ってくれた。スクリュー打つ方が大変だよ、は、パートナーの弁。

確かに…。前回は7本で登った。登攀が易しいので、スクリューを打っているほうが、氷壁の中での滞在時間が長くなり、登攀は困難化する。

しかも、今回は、2月のもっともよい時期とは違い、3月に入ってしまったため、氷の質が水氷で、ペツルのレーザースピードライトは入りづらい。力持ちのパートナーでも苦労していた。

前回1本目を入れた緩傾斜までに、スクリューを3本も入れた(笑)。

でも、55mで17本は私には必要な保険だ。

アイスクライミングは、落ちれないとよく言われる。それは落ちれば大事故が待っているからだ。足首の骨折で済めば軽傷。

しかし、アイスは基本的に落ちることは考えにくいクライミング形態だ。なぜなら、アックスがバチ効きでなければ、そもそも次の一手を出さないからだ。

けれど、それとランナウトしていいかということは、また違う話だ。

落ちないことを理由にするのなら、フリーソロでもいい、という極論にたどり着かざるを得ない。

落ちる落ちないにかかわらず、プロテクションを適切に設置する技術というのは、身を守るための防御の技術として、まず初心者は身に着けなくてはならないものなのだ。

■ リード

さて、ロープを抜く。チェストハーネスとフィフィを身に着ける。

あまり緊張はしていない。

これは、ドライをして、アイスクライミングの知見が深まり、アイスではバチ効き以外登らないのだ、と分かったおかげだ。

緩傾斜帯で、立ち止まって、スクリューにロープを掛けるが、たしかに、ロープを掛ける動作が加わるほうが、ふくらはぎがパンプしそうだ。垂直部に行くまでに3本。

やっと垂直部だ。このラインは、初めて登る。一番易しい右のラインなら…という思いがあったが、この真ん中のラインも、アックスの跡だらけ。半分くらいはフッキングでも行ける。

が、プロテクションにロープを掛ける動作が煩わしい。トップロープって本当に登攀だけに集中できて、楽しいクライミングスタイルなんだな~と改めて思う。

中間部は垂直に立っていて、一番気を使う。プロテクションの間隔も近く、3m置き。

ゆっくり確実をモットーに登った。本来は、対角線バランスを使って登れるところも、わざと、正対で登った。アックスは2本とも確実になるまで、体をあげない。

すこし、フットホールドで紛らわしいところもあった。すでにある穴を信用するより、自分の背丈にマッチしたスタンスのほうが良いかもしれないと考えたが、考えすぎのようだった。ともかく、デコボコだらけだった。要するに登攀は易しい。氷は悪く、プロテクションを入れる場所は要考察なようで、ピンクで良かったと思った。

中間部の垂直が終わると、あとはレッジに立てる易しい三級部分が続く。寝ているとはいえ、傾斜が緩いと登攀のラインを優先して、多少の垂直部は直上する。

すぐに上部の棚を終わり、終了点だった。意外にすぐに終わった。

ローワーダウンは、振られないように、セルフを登攀した側のロープに掛け、ローワーダウン中にスクリューを回収する。回収があるため、ローワーダウンのほうも登攀と同じくらい時間がかかった。

追突された鞭打ちで首が痛いパートナーにビレイをさせて悪いなぁ…とは思うが、そもそも、私の今年のリード課題は、南沢大滝だったのに、この相沢大氷柱のリードが積み残し課題になったのは、彼のせいだしなぁ…とも思う。

私自身は、ここが自分のリード課題になるとは、つゆとも思っていなかった。

■ 怖さの元凶

だから、恐怖を克服する、という課題を与えられたのは、正直、心外だった。高さに恐怖と感じている、とは、今まで自分に感じたことはなかったからだ。

多分、多くの女性クライマーが最初に感じている恐怖は、パワー切れだと思う。

アイスクライミングはパンプとの戦いで、パンプへの恐怖がパンプを呼ぶ。

だから、パンプで落ちる、という恐怖は持っている。

その恐怖に対する心の保険は、アックステンションなのだが、アックステンションは、ここしばらくフリーの底上げのためにお預けにしてあったのだった。

パワー切れについては、励ましと実際の筋トレが有効な対策と思う。ラオスは励まされて登ったら、登れた。

■ 高さへのチャレンジ

高さにチャレンジする気は元々あった。

今シーズンは、シーズン初めに青のスクリューを3本買い足した。トータル7本。それはいよいよ35m南沢大滝をリードする段階に来た、と自分で思ったからだった。大滝は35mなので、7本くらいだろうと思っていた。それでも単純計算で5m置きなのだが。

余談だが、自分のを買った時、ついでに後輩にもシーズン初めにスクリューを買わないと売り切れて買えないよ、と伝えておいた。去年は私のスクリューで、初級ルートにセカンドで登らせているからだ。同じルートを、今年はつるべで行こうね、と話してあった。

でも、彼はいまだにスクリューを一本も持っていない。つるべもリードも興味がないという意味になる。せっかく、つるべも手取り足取り、ロープワークもレスキューも教え、アルパインを紹介したのに、彼も結局は、金魚の糞登山組なのか、と残念だ。

■ ビレイヤーの選択のこと

初心者のリードを見守るのは、ビレイヤーの方も疲れるものだ。

2回目に、相沢に来た時、明らかに初めて相沢をリードする男性クライマーを明らかにまったくビレイ経験初心者の女性がビレイしていた。その女性はアイスは、まるで初心者でギアも借り物。そのわきに彼女より初心者の若い男性一人。ベテランと思しき男性が引率していたが、先輩と私たち二人が滝に到着すると、私たちの会話を聞いて、初心者を見張っているのはやってくれそうと感じたようで、エイプリルの方へ行ってしまった。

初めてリードする男性は緊張でガチガチになっており、大変そうにしていたが、ビレイしている方は、のんきなもので退屈そうだった。初心者のビレイヤーは、クライマーの心には寄り添えない。クライミングが何か?よく分かっていないからだ。

でも、見ていて正しい山岳会の在り方だと思った。登攀している彼は相沢をマスタースタイルのリードで取り付くくらいなのだから、すでにリード経験は豊富なハズであるし、ビレイヤーの方はアイスは初めてでも、岩でのビレイ経験は十分やっているだろう。連れている若い男性は、先輩らを見て学んでね、という意味だろう。だから、彼には彼女のビレイで登るクライミングのリスクは取れる。

1回目の相沢では、初めてリードする人は、ベテランにビレイされていた。見ていると、リードクライマーは一度落ちそうになった。そんな人には確実なビレイヤーが必要だ。また、2本連結したロープでのリードでも、下からアドバイスが必要で、リードクライマーとしての能力はまだ100%ではなさそうだった。私が後で登ってロープを治したのだから。やはり、そう言う人には、後輩のビレイではなく、ベテランのビレイヤーのサポートがないと、登るべきでないだろう。実際、育成されている、ということが明らかなペアだった。

私はどうだろう?

1回目の相沢の、落ちそうになった彼と比べてムーブは洗練されているが、当然だが腕力は劣るだろう。2回目に先輩と行った時は、先輩との腕力差は明らかなのに、その先輩でも55mは、なかなかのチャレンジで、パンプで大変だと言うことが分かった。また後輩にビレイされている上記の他会のクライマーも見た。

やはり、どの人も私より経験値やパワーが上で、私は、まだ南沢小滝も大滝も終わっていないのだから、落ちる可能性や、リード自体の経験値が不足しているクライマーだと思えた。

やはり、ビレイは確実な人でクライマーに指示を出せる人にお願いするべきだろう。

■ エイプリルフールへ

そつなくピンクをこなした後は、以前、先輩と来た時に来た、エイプリルフールへ。

エイプリルの横の滝をリードしたいと思っていたが、なんだか精神的に疲れて、リードするタイミングではないように思われた。ビレイしてくれたパートナーも、心配で精神的に疲れていそうだった。

それで、結局エイプリルフールを登ってもらい、セカンドで、回収しながら登った。エイプリルは予想より悪かった。簡単そうに見えたのに。意外に氷がバージン状態だった。

アックスの跡がパートナーの分しかなかったので、正確にアックスの跡をたどり、スクリューが腰の位置にくるまで、回収を我慢。

プロテクションは、腰の位置が一番安全なのだ。手繰り落ちがないから。

テーマは、パートナーと私の登攀の身長差をどう埋めるか。

20cmくらい身長が違うのだから、安定する位置が違うハズだし、アックスを打ちこむ先も違うはずなのだ。

アックスの打ち込み先を優先すれば、スタンスをあげないといけないハズだし、スタンスを利用すれば、アックスの打ち込み先が下がるはずだ。

たぶん、岩のように、ハンドホールドの決定が先で、そのホールドを取りに行くために、小さい人は、細かく足をあげるのだろうか?

それとも、アイスの自由度を生かして、立ちこみやすいところに立ち、アックスのほうは、穴ホジホジ作戦で行くのだろうか?

私の結論は両方で、基本的にスムーズな所は、アックスを優先して、足は蹴り込んであげるが、顕著なフットホールドがあって、明確にそれを使った方がいいと分かる場合(ハング気味のところで、出っ張っていて傾斜が殺せる唯一のスタンスなど)は、アックスを後回しにして届くところに、アックスを掛けてもよい。

■ 帰り

以上であっという間に、15時。もう帰る時間だ。帰路にワークマンに立ち寄り、ドライ用のグローブを物色したが、あまり良いものがなかった。一応毛糸の手袋をゲット。

翌日は、雨予報で、湯川から角木場の転進を考えたが、標高の高い角木場でさえも雨のようだったので、登攀は中止にして、アックス研ぎの費やした。

■ 次の課題

今回は、正対にこだわってリードした。アックスは2点、バチ効き。

次回は、プロテクションとプロテクションの間の登攀は、対角線バランスでスピード重視で行くべきだと思う。

プロテクションを取るときは、二等辺三角形が必要だから、それは3ムーブ、4ムーブ起きにレストする、という意味だ。

プロテクションを設置するとき、教科書的にはセオリーは左手を伸ばした状態だが、それだと、私の場合はパンプが早く来てしまうので、左手は引きつけた状態でスクリューを打ちこむのが、私にとっては最も安心できる体制だ。だから、引きつけをマスターする必要はぜひともある。

また、今回のことで、パートナーとより細かく自分の登攀のテーマについて普段から、共通認識を持っておくことが大事だと気が付いた。パートナーはアイス歴40年のため、先輩後輩というよりも、コーチと選手の間柄になってしまう。選手である私は、コーチに自分の技術的課題をきちんと伝えておかないと。

翌日、帰りに清里ラインを帰ったら、雨がみぞれに変わり、霧氷が美しかった。野辺山の辺りは何度通っても美しい場所だなぁと思う。

八ヶ岳に通い始めた頃、夫と本沢温泉へ歩いた。道路に落ちている寝ぼけたヤマネを発見したり、残雪期で、凍ったつるつるの登山道を6本爪アイゼンで歩いたりした。

懐かしい思い出の地だ。またひとつ良き思い出ができた、と思う。


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